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弟子の體ははづみを食つて、勢よく床(ゆか)を鳴らしながら、ごろりとそこへ橫倒しに倒れてしまつたのでございます。
九
その時の弟子の恰好(かつかう)は、まるで酒甕を転がしたやうだとでも申しませうか。何しろ手も足も慘(むご)たらしく折り曲げられて居りますから、動くのは唯首ばかりでございます。そこへ肥つた體中の血が、鎖に迴圈(めぐり)を止められたので、顔と雲はず胴と雲はず、一面に面板の色が赤み走つて參るではございませんか。が、良秀にはそれも格別気にならないと見えまして、その酒甕のやうな體のまはりを、あちこちと廻つて眺めながら、同じやうな寫真の図を何枚となく描いて居ります。その間、俊�槨欷皮黏氳蘢嬰紊恧�ⅳ嗓撾豢啶筏�膜郡�仍皮帳隴稀⒑韋玀銫叮�莧·炅ⅳ譬f申し上げるまでもございますまい。
が、もし何事も起らなかつたと致しましたら、この苦しみは恐らくまだその上にも、つゞけられた事でございませう。幸(と申しますより、或は不幸にと申した方がよろしいかも知れません。)暫く致しますと、部屋の隅にある壺の蔭から、まるで�び亭韋浹Δ勝玀韋�⒁護工錄殼�Δ亭轆勝�欏⒘鰥斐訾筏撇韋轆蓼筏俊¥餞欷�激沃肖嫌喑陶長隁蕒韋ⅳ毪玀惟fやうに、ゆつくり動いて居りましたが、だん/\滑らかに、辷(すべ)り始めて、やがてちら/\光りながら、鼻の先まで流れ著いたのを眺めますと、弟子は思はず、息を引いて、
「蛇が――蛇が。」と喚(わめ)きました。その時は全く體中の血が一時に凍るかと思つたと申しますが、それも無理はございません。蛇は実際もう少しで、鎖の食ひこんでゐる、頸の肉へその冷い舌の先を觸れようとしてゐたのでございます。この思ひもよらない出來事には、いくら橫道な良秀でも、ぎよつと致したのでございませう。慌てて畫筆を投げ棄てながら、咄嗟に身をかがめたと思ふと、素早く蛇の尾をつかまへて、ぶらりと逆に吊り下げました。蛇は吊り下げられながらも、頭を上げて、きり/\と自分の體へ巻つきましたが、どうしてもあの男の手の所まではとどきません。
「おのれ故に、あつたら一筆(ひとふで)を仕損(しそん)じたぞ。」
良秀は忌々しさうにかう呟くと、蛇はその儘部屋の隅の壺の中へ拋りこんで、それからさも不承無承(ふしようぶしよう)に、弟子の體へかゝつてゐる鎖を解いてくれました。それも唯解いてくれたと雲ふ丈で、肝腎の弟子の方へは、優しい言葉一つかけてはやりません。大方弟子が蛇に噛まれるよりも、寫真の一筆を鍘�膜郡韋��I腹(ごふはら)だつたのでございませう。――後で聞きますと、この蛇もやはり姿を寫す為にわざ/\あの男が飼つてゐたのださうでございます。
これだけの事を御聞きになつたのでも、良秀の気摺�窯袱撙俊⒈�菸釘螑櫎�糝肖摔勝攴餞�⒙裕à鄆g)御わかりになつた事でございませう。所が最後に一つ、今度はまだ十三四の弟子が、やはり地獄変の屏風の御かげで、雲はゞ命にも関(かゝ)はり兼(か)ねない、恐ろしい目に出遇ひました。その弟子は生れつき色の白い女のやうな男でございましたが、或夜の事、何気なく師匠の部屋へ呼ばれて參りますと、良秀は燈臺の火の下で掌(てのひら)に何やら腥(なまぐさ)い肉をのせながら、見慣れない一羽の鳥を養つてゐるのでございます。大きさは先(まづ)、世の常の貓ほどもございませうか。さう雲へば、耳のやうに両方へつき出た羽毛と雲ひ、琥珀(こはく)のやうな色をした、大きな円い眼(まなこ)と雲ひ、見た所も何となく貓に似て居りました。
十
元來良秀と雲ふ男は、何でも自分のしてゐる事に嘴(くちばし)を入れられるのが大嫌ひで、先刻申し上げた蛇などもさうでございますが、自分の部屋の中に何があるか、一切さう雲ふ事は弟子たちにも知らせた事がございません。でございますから、或時は機の上に髑髏(されかうべ)がのつてゐたり、或時は又、銀(しろがね)の椀や蒔劍�胃呋擔à郡�膜�─瑏Kんでゐたり、その時描いてゐる畫次第で、隨分思ひもよらない物が出て居りました。が、ふだんはかやうな品を、一體どこにしまつて置くのか、それは又誰にもわからなかつたさうでございます。あの男が福徳の大神の冥助を受けてゐるなどゝ申す噂
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